特徴

鹿の子絞のイメージ

絞り染めの中でも鹿の子と言われる疋田絞(ひったしぼり)、一目絞(ひとめしぼり)の、その括り粒の精緻さや、括りによる独特の立体感の表現は、他に類のないものです。

この他、それぞれの括り技法の持つ表現力を組み合わせて、模様が表現されています。

京鹿の子絞の魅力

解き放たれる美しさ

製品のアップ写真

見る角度や纏う人の体の曲線によって、さまざまに表情を変える奥の深さ、友禅や小紋にはない柔らかな質感で、あこがれの着物の筆頭に挙げられる「総疋田絞」。「総疋田絞」に代表される「京鹿の子絞」は、布を苛めることで作られると言われます。布を摘まみ、糸できつく括り、場合によっては桶の中に詰め込み、染液に浸して染めることで、その模様と風合いは生れます。作業はそれぞれの熟練した人の手によって行われますが、製作に携わる人達のほとんどは、仕上がりの様子を知ることはありません。括られて小さくなった布の秘めた真の美しさを知るには、すべての染めが終わり、括りを解かれる時を待たなければなりません。その時初めて染め色の中から立体的な模様が連続する美しい布が姿を現わすのです。


括り糸を解く前

糸で括られた部分は染まらずに白く残り、模様となります。括られた時の凹凸も、染色後まで「括り粒」という小さな隆起や「しわ」となって残ります。模様と地は繊細なにじみによって分けられ、凹凸は布の表面に微妙な陰影を与えます。「京鹿の子絞」の極めて精緻な括りと高度な染めの技術から作り出される、色合いやにじみ具合、独特の立体感は、他の技法では決して得ることのできない美しさを創り出しています。

百花繚乱 京鹿の子絞

多様な技法を併用した製品

京都には千数百年に及ぶ絞り染の伝統があります。その技は今も受け継がれ、京都ならではの高度な技によって数々の作品が作り出されています。こうした技術を使って産み出された絞り製品の総称が「京鹿の子絞」です。代表的なものに「疋田絞」があります。染め上がりが子鹿の背中の模様に似ていることから、一般に「鹿の子絞」として広く知られています。

その他に、一目絞、傘巻絞、縫締絞、唄絞(ばいしぼり)、帽子絞、桶絞、板締絞など約50種類にも上る絞り技法があります。京都では、これらの絞りについて、ひとりがひとつの技法だけを行うことが多く、特に疋田絞や一目絞は完全な専門職になっています。極めて高い技術は、こうして受け継がれてきたのです。

人の手間という贅沢

総疋田

一面を小さな「括り粒」で覆われた「総疋田絞」の布地に触れると、独特の感触が返ってきます。この「括り粒」はひとつひとつ手作業によって作られたものです。「総鹿の子」と呼ばれた昔から、最高の贅沢品とされた「総疋田絞」は、振袖ともなると、そこには18〜20万粒という、気の遠くなるような数の括りが作られます。熟練者でも一日800〜1200粒括るのが精一杯です。一反を括るのに1年以上、振袖であれば一年半の時間が必要です。その膨大な数の括り粒を一本の糸で一粒一粒括り続けるのです。贅沢とされた理由は、見た目の美しさだけでなく、そこにかけられた時間と手間を誰もが知っていたからでしょう。

括りは、括る人が変わると出来上がりが変わるため、初めから終わりまで一人で括らなければなりません。そのため「鹿の子結い」と呼ばれる括り手は、健康に気を配ります。健康を損なうと括りの調子が変化してしまうのです。また括りは、健康状態だけでなく心の揺れさえも映すため、括り手は常に気持ちを落ち着けて作業をするように心がけています。

美しく括られた「総疋田絞」は、染め上がると均一の大きさの粒が、斜め45°の角度で正確に並びます。極めて精緻ではあっても、機械仕事のような完璧さではありません。計測できないほどかすかなぶれが、手仕事ならではの暖かさや表情を産み出しているのです。人の手からしか生まれえない美しさがここにあります。

どんなに技を尽くしても、染めを終え、括った糸を最終的に解いてみるまで、仕上がりがわからないのが絞り染です。微妙なにじみ具合、ちょっとした偶然、そうした要素が絡み合い、ふたつとして同じもののない作品を産み出しているのです。

手わざの積み重ね ひとりひとりの仕事の厳しさ

浸染作業風景

京都の工芸品はほとんどが分業によって製作されています。「京鹿の子絞」もその例外ではありません。「京鹿の子絞」の三本柱は、「括り」、「染め分け」、「染め」、もちろん構図やデザインを考える人もいます。その他、仕上げ整理をする人まで数多くの専門職の人々の連携で、製品が作られています。「括り」と一口にいっても、ひとつの布地に何種類もの絞り技法が入っていれば、それに携わる括り手の数は増えていきます。

パーツ型の分業とは異なり、完成までの長い月日、一枚の布地がこれらの人々の間を行き来します。複雑なものになると、「括り」、「染め分け」、「染め」の間の行ったり来たりを何度も繰り返します。

自分の作業を仕損じれば、その布地をお金を払って引き取らなければなりません。工程の先へいけばいくほど、作業を行う布の価値は上がっていきます。たとえば、一年以上かけて括られた布地を扱う時、染め手は、布地が自分の元に届くまでの、全ての工程に携わった人々全ての苦労と、手間賃の重みを背負って作業を行っているのです。その厳しさが、技術にいっそうの磨きをかけるのです。

→京鹿の子絞の製作工程はこちら

人と人の繋がりが、技を活かす

京鹿の子絞り

「京鹿の子絞」には、分業ゆえの高度な技術があります。その技術を最大限に活かすための人選をして仕事の流れを作るのは、主に問屋やデザイナーです。そのためには、あちこちで職人の仕事を見聞きして、それぞれの技量を知っておくことも大事な仕事になります。

また、染め手は、括り手が誰かを把握して作業を行います。ひとりひとり、括りの強さが違うからです。括りの強さが異なれば、染まり具合も違います。括り手の癖を見込んで、求められている仕上がりのイメージ通りに、染め上げなくてはならないのです。

絞り染の場合、デザインは図柄や色調だけではありません。デザイナーは、それをどの絞り技法で表現するかというところまで考えなければならないのです。そして同じ技法でも人によって味わいが変わるのですから、情報収集も大変です。

「京鹿の子絞」は人の手わざの積み重ね、それぞれの人の力量が出来の善し悪しを左右します。プロとプロとが相手の技量を考えながら仕事をする時、それは単なる足し算以上の結果となって現れます。

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